テンプレートディレクティブの概要
Astroではテンプレートディレクティブと呼ばれる特別なHTML属性が用意されています。これらは主にAstroコンポーネント(.astro
ファイル)のテンプレート内で使えますが、一部は.mdx
ファイルでも使用可能です。
テンプレートディレクティブの役割は、要素やコンポーネントの挙動をコントロールすることです。例えば、開発をより楽にするコンパイラ機能(class
の代わりにclass:list
を使うなど)を有効にしたり、Astroコンパイラに特別な指示(client:load
でクライアントサイドの機能を有効にするなど)を出したりします。
このページでは、Astroで使えるすべてのテンプレートディレクティブとその働きについて詳しく解説します。
テンプレートディレクティブを正しく使うには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 名前にコロン(:)を含めること。例えば「X:Y」のような形式です(例:
client:load
)。 - コンパイラから認識できる位置に書くこと。例えば、
<X {...attr}>
のように書いた場合、attr
の中身にディレクティブがあってもコンパイラには見えないので注意が必要です。
テンプレートディレクティブの中には、独自の値を設定できるものもあります。例えば、
<X client:load />
→ 値を設定する必要がありません<X class:list={['some-css-class']} />
→ 配列を値として渡します。
なお、テンプレートディレクティブはコンポーネントの最終的なHTML出力には含まれません。あくまでAstroのビルド時に使われる特別な指示といえるでしょう。
よく使われるディレクティブ
セクションタイトル: よく使われるディレクティブclass:list
セクションタイトル: class:listclass:list={...}
は、複数のクラス値を配列で受け取り、それを一つのクラス文字列に変換します。この機能は、@lukeedの人気ライブラリ clsx を使って実現しています。
class:list
で使える値の種類は以下の通りです。
- 文字列:そのまま要素のクラスとして追加されます
- オブジェクト:値が真のキーが要素のクラスとして追加されます
- 配列:中身を展開して処理します
false
,null
,undefined
:無視されます
set:html
セクションタイトル: set:htmlset:html={string}
は、HTML文字列を要素の中身として挿入します。これは el.innerHTML
を使うのと似た動作をします。
注意:Astroは自動的にこの値をエスケープしません! 必ず信頼できる値を使うか、テンプレートに渡す前に手動でエスケープしてください。これを怠ると、クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃の危険性があります。
また、set:html
は <Fragment>
でも使えるので、余分なラッパー要素を追加せずにHTMLを挿入できます。これはCMSからHTMLを取得する場合などに特に便利です。
set:html={Promise<string>}
を使うと、PromiseでラップされたHTML文字列を要素に挿入できます。
これは、データベースなどに保存されている外部のHTMLを挿入する際に役立ちます。
set:html={Promise<Response>}
を使うと、Response オブジェクトの内容を要素に挿入できます。
これは主に fetch()
を使う場合に便利です。例えば、以前の静的サイトジェネレーターで作成した古い記事を取得する際などに使えます。
set:html
はどんなタグでも使えますし、必ずしもHTMLを含める必要はありません。例えば、ページに JSON-LD スキーマを追加したい場合、<script>
タグ内で JSON.stringify()
と組み合わせて使うこともできます。
set:text
セクションタイトル: set:textset:text={string}
は、テキスト文字列を要素に挿入します。これは、el.innerText
を設定するのと似ています。set:html
とは異なり、渡された string
値はAstroによって自動的にエスケープされます。
これは、テンプレート式に直接変数を渡すことと等価です(例:<div>{someText}</div>
)。そのため、このディレクティブは一般的にはあまり使用されません。
クライアントディレクティブ
セクションタイトル: クライアントディレクティブクライアントディレクティブは、UIフレームワークコンポーネントがブラウザ上でどのように「動的に機能するか」を制御します。
特に指定がない限り、UIフレームワークコンポーネントはクライアントサイドでは静的なHTMLとして扱われます。client:*
ディレクティブを使用しない場合、JavaScriptを含まない単なるHTMLとしてページに表示されます。
クライアントディレクティブを使えるのは、.astro
ファイルに直接インポートされたUIフレームワークコンポーネントに限ります。動的タグや、components
プロップを通じて渡されるカスタムコンポーネントでは、これらのディレクティブは使用できません。
client:load
セクションタイトル: client:load- 優先度: 高
- 適している場面: すぐに操作可能にする必要がある、ページ読み込み時に見えるUI要素
ページの読み込みと同時に、コンポーネントのJavaScriptを読み込んで動的機能を有効化します。
client:idle
セクションタイトル: client:idle- 優先度: 中
- 適している場面: すぐに操作可能にする必要のない、それほど重要でないUI要素
ページの初期読み込みが終わり、ブラウザが待機状態になったときに、コンポーネントのJavaScriptを読み込んで動的機能を有効化します。具体的にはrequestIdleCallback
イベントが発生したタイミングです。もし使用中のブラウザがrequestIdleCallback
に対応していない場合は、代わりにload
イベントが使用されます。
client:visible
セクションタイトル: client:visible- 優先度: 低
- 適している場面: 画面下部にあるUI要素や、読み込みに時間がかかる要素で、ユーザーが実際に見たときのみ読み込みたいもの
コンポーネントが画面内に表示されたときに、JavaScriptを読み込んで動的機能を有効化します。内部的にはIntersectionObserver
を使って要素の表示状態を監視しています。
client:visible={{rootMargin}}
セクションタイトル: client:visible={{rootMargin}}
追加:
astro@4.1.0
必要に応じて、rootMargin
の値を指定できます。これは内部で使用されるIntersectionObserver
に渡されます。rootMargin
を指定すると、コンポーネント自体ではなく、コンポーネントの周囲に指定したマージン(ピクセル単位)が画面に入ったときにJavaScriptが読み込まれ、動的機能が有効化されます。
rootMargin
を指定すると、以下のような利点があります。
- レイアウトの急な変化(CLS)を減らせる
- 通信速度が遅い環境でも、コンポーネントの準備に余裕を持たせられる
- コンポーネントをより早く操作可能にできる
これらにより、ページの安定性と応答性が向上します。
client:media
セクションタイトル: client:media- 優先度: 低
- 適している場面: サイドバーの切り替えボタンや、特定の画面サイズでのみ表示される要素など
client:media={string}
は、指定したCSSメディアクエリの条件が満たされたときに、コンポーネントのJavaScriptを読み込み、動的機能を有効化します。
もしコンポーネントがすでにCSSのメディアクエリで表示/非表示を制御している場合は、同じメディアクエリをこのディレクティブに指定するよりも、単に client:visible
を使用する方が簡単かもしれません。
client:only
セクションタイトル: client:onlyclient:only={string}
は、サーバー側でのHTMLレンダリングを行わず、クライアント側でのみレンダリングします。ページ読み込み時にすぐにコンポーネントを読み込み、レンダリングし、動的機能を有効化するという点で、client:load
と似た動作をします。
重要:コンポーネントが使用しているフレームワークを正確に指定する必要があります! Astroはビルド時やサーバー側でこのコンポーネントを実行しないため、明示的に指定しない限り、どのフレームワークを使用しているか把握できません。
カスタムクライアントディレクティブ
セクションタイトル: カスタムクライアントディレクティブAstro 2.6.0以降、インテグレーションを通じて独自の client:*
ディレクティブを追加できるようになりました。これにより、コンポーネントをいつ、どのように動的に機能させるかをカスタマイズできます。
カスタムクライアントディレクティブの作成方法については、addClientDirective
API のページを参照してください。
スクリプトとスタイルのディレクティブ
セクションタイトル: スクリプトとスタイルのディレクティブこれらのディレクティブは、HTML の <script>
と <style>
タグでのみ使えます。ページ上のクライアントサイドJavaScriptとCSSの扱い方を制御するためのものです。
is:global
セクションタイトル: is:global通常、Astroは <style>
内のCSSルールを自動的にコンポーネント内に限定します。この動作を解除したい場合は is:global
ディレクティブを使います。
is:global
を使うと、<style>
タグの中身がページ全体に適用されます。つまり、AstroのCSS限定機能が無効になります。これは、<style>
タグ内のすべてのセレクタを :global()
で囲むのと同じ効果があります。
同じコンポーネント内で <style>
と <style is:global>
を併用することもできます。これにより、一部のスタイルをグローバルに適用しつつ、大部分のCSSはコンポーネント内に限定することができます。
is:inline
セクションタイトル: is:inline通常、Astroはページ上の <script>
と <style>
タグを処理し、最適化して、まとめます。この動作を止めたい場合は is:inline
ディレクティブを使います。
is:inline
を使うと、Astroは <script>
や <style>
タグをそのまま最終的なHTMLに出力します。内容の処理や最適化、まとめは行われません。ただし、これによりAstroの一部機能(npmパッケージのインポートや、SassのようなCSSプリプロセッサの使用など)が制限されます。
is:inline
ディレクティブを使うと、<style>
と <script>
タグは以下のようになります。
- 別ファイルにまとめられません。そのため、外部ファイルの読み込みを制御する
defer
などの属性は効果がありません。 - 重複排除されません。要素は記述された回数だけ出力されます。
import
、@import
、url()
の参照が.astro
ファイルからの相対パスで解決されません。- 記述された位置にそのまま最終的なHTMLとして出力されます。
- スタイルはグローバルになり、コンポーネントに限定されません。
<script>
や <style>
タグに src
以外の属性がある場合、is:inline
ディレクティブが自動的に適用されます。
ただし、<style>
タグに define:vars
ディレクティブ を使用する場合は例外で、自動的に is:inline
にはなりません。
define:vars
セクションタイトル: define:varsdefine:vars={...}
を使うと、コンポーネントのフロントマターからクライアントの <script>
や <style>
タグに、サーバーサイドの変数を渡せます。JSON形式にできるフロントマター変数なら何でも使えます。Astro.props
を通じてコンポーネントに渡された props
も含みます。値は JSON.stringify()
でシリアライズされます。
<script>
タグで define:vars
を使うと、自動的に is:inline
ディレクティブ が適用されます。つまり、スクリプトはまとめられずに、HTMLに直接埋め込まれます。
これは、Astroがスクリプトをまとめる際、そのスクリプトを一度だけ実行するようにしているためです。同じコンポーネントがページに複数回含まれていても、スクリプトは一度しか実行されません。しかし define:vars
は、それぞれの値セットでスクリプトを再実行する必要があるため、Astroはインラインスクリプトを作成します。
スクリプトに変数を渡す場合は、代わりに手動で変数を渡す方法を試してみてください。
高度なディレクティブ
セクションタイトル: 高度なディレクティブis:raw
セクションタイトル: is:rawis:raw
は、Astroコンパイラにその要素の中身をテキストとして扱うよう指示します。これにより、その要素内ではAstroの特殊なテンプレート構文がすべて無視されます。
例えば、テキストをHTMLに変換するカスタムのKatexコンポーネントがある場合、ユーザーは以下のように使えます。
Reference